無言の合図

 今は21時。部活の帰り道。
もう周りは真っ暗で、街灯が自分の足下だけぼんやりと照らしてる。そんな時は私が帰ろうとすると無言で片付け出して。私が外に出た頃には後ろで鍵を閉めてるヒル魔君がいて。気が付けば並んで帰っている。でもやっぱり歩調を合わせてくれる訳じゃないんだけどね。お陰で最近は少し歩くのが早くなったかもしれない。会話する事はほんとに二言三言で終わっちゃって始めのうちは何か喋らなきゃって思ってたけど、今ではそんな沈黙も気にならないくらい穏やかなこの時間が好きになってた。
ある時、ふと気が付いた。
普段は両手共ポケットに突っ込んでいる筈のヒル魔君の右手だけが外で暇そうに揺れてるの。少し後ろから気になってじーっと観察していたらどうしても触りたくなって思わず、握ってしまった。
思いっきり。
そうしたら何事もなかったかのように逆に握り返された。そうしてようやく気が付く。
あ、作戦だったのね。
少し上から満面の笑み。悔しいから俯いてやる!顔、熱いんだもの。

それから手がポケットから外に出てる時は手を繋ぐ合図。もちろん何にも言わないけれど。遠回りしてまで家に送ってくれるから蕩ける様なセリフがなくてももう十分。時々欲しくなるけれどそれはそれで似合わないからそんな言葉も必要ない。
あ、今日も手が出てる。
そのうち手の甲にキスでも落としてやろうかしら。

…なんてね。