歪 後編

息苦しさからか僅かに開いた唇から舌を入れて、無理矢理口内を蹂躙する。キスも初めてだったのだろう、たどたどしい動きの舌を絡め取る。吸って、舌先に歯を立てた。
「んっ…ふっ…!」
糞女が息苦しそうにもがく。だがそんなことは気にも留めずに夢中で食らいついた。唇はそのままで、襟元のリボンを毟る様に解きブラウスのボタンを乱暴に外していく。キャミソールを潜り抜けて素肌に指が触れれば、糞女の体がビクリと強張った。ひやりとした体、滑る様な手触りのそれに思わず喉が鳴る。フックを外してブラジャーを上にずらせば豊満な双丘が露になる。急に冷えた外気に晒されて、糞女は息を詰めた。だがそんなことには気を留めていられなかった。糞女の上体をカジノ台の上まで引き上げてやる。無理な体勢から解放されて強張っていた体から力が抜ける。鉄の味がする唇はそのままに、露になった双丘を加減もなく掴んだ。指が、得も言われぬ感触に沈んでいく。肌が粟立つ。
「っ…!」
やや乱暴だったのか、痛みで女の顔が歪んだ。それでも構わずに口内を舌で弄んで疼きと熱を分け与える。手で、指で胸を揉みしだいた。拒むことのないそれに気を良くして、双丘の頂を指で嬲った。
「ふっ…」
次に漏れ出た声は痛みによるものではなかった。ぴくりと体が反応して身を捩り、熱の籠った息を吐く。左手はそのままに右手で栗色をかき上げて、音を立てて放した唇で形のいい耳を食んだ。
「あ…っんっ…!」
もう一度ぴくりと体を震わせて、きつく眸を閉じている。舌を耳に這わせて、ぐちゃぐちゃ音を立ててやりながら右手を肢体に沿わせて下ろしていく。指先で、触れるか触れないかの加減で。初めての快楽に耐えられないのだろう、白い喉を反らせて必死で耐えようとしているのが眼に入る。
もっと、聲が聴きたい。
「声、出せよ」
孔に直接吹き込むように言えば、小さく頭を振って桜色の唇から言葉が漏れる。
「は、ずかしい、から、いや…!」
「声出せ。その方が俺もテメェも楽になる」
耳に歯を立てながらスカートに隠された臀部に触れる。そっと撫でてやりながら頂を捏ねた。
「あ…!や、なんか、へ、ん…!」
刺激に耐えられなくなったのか、投げ出した両腕を俺の背中に回してブレザーを掴んでいる。何度かそれを繰り返していると糞女の口から声が溢れ出した。自然と口角が上がる。疼きが込み上げてくる。耳を舐め溶かしていた唇を首筋に移動させて、右手をショーツの割れ目に伸ばした。そこは、しとどに濡れていた。
「ん…!」
「すげぇ濡れてるな」
「や…!言わな…ひゃっ!」
ショーツ越しにこすってやれば今までとは違った快感が上ったらしく、声が零れる。それに気を良くして頂を口に含んで転がしてやれば、背筋を仰け反らせて軽く上り詰めたようだった。嗤いが止まらない。自身が脈打つのがわかる。舌を波打つ白い腹に這わせて、吸い付いては朱印を散らす。痛みに身じろいだが、その仕草は『奴』を煽るだけだ。役割を果たさなくなったショーツを剥ぎ取るとそこは既に蜜で濡れていて、細い銀糸をひいた。
「きゃあぁっ!いや、ぁ、こんな格好、恥ずかし、い…!やめてぇ…!」
両足を引き上げてあられもない格好にしてやれば、正気を取り戻したのか糞女が抵抗した。だが言葉とは裏腹に、そこは女の馨をさせて男を誘っているようだった。無意味な抵抗を無視して手で秘裂を割ってやれば、まだ男を知らないそこが誘うように蠢いている。

まだ、誰も、知らないのだ。

その事実に歓喜が沸き起こって、このまま突き入れてしまいたい衝動に駆られる。それを濃い息を吐いていなして、密やかに主張する蕾を舌で突いた。
「ひっ…!」
途端、電気が走ったように仰け反って、声が漏れる。勝手に笑むのを抑えることができずに蕾に吸い付いて、秘裂に指を押し込んだ。快楽が羞恥とか逡巡とかを凌駕したのか声を抑えることを諦めて、俺の髪に指を絡めて頭を掴んでいる。それで波に飲まれるのを堪えているようだった。溢れてくる蜜が俺の口内を蹂躙する。そのまま肚に落とせば『奴』が鎌首を擡げてきた。虎視眈々とこちらを狙っている。 入れる指を増やして更にかき乱す。快楽に溺れる為に。俺のモノにする為に。

昏く黒い快感。醜いエゴイズム。また、支配しようと目論む、歪んだ何か。

唇を持ち上げた太腿に落とす。
そこに、烙印。テメェを堕落させる為の烙印。
なぁ、俺と墜ちる覚悟は出来てんだろ?解ってたんだろ?糞女。
でなけりゃ、俺がここまで惚れる事は、なかった筈だ。
自覚するのも拒む程。
狂いそうになる程。

唇が蜜に潤んだまま女の顔を覗き込む。女の指は、まだ俺の髪に絡んだままだ。表情は虚ろで、眸は潤んでいる。僅かに開いた唇をたどたどしく動かして、それで。
「あ…ヒル、魔、くん…」
女が、俺の名を呼んだ。
醜い快感が沸き上がって、一度抑えた筈の『奴』が貌を出す。
もう、異常な程の昂ぶりに右も左も解らない。
食らいつくようにキスをして、蜜を分け合う。合間に漏れるくぐもった吐息も全て、飲み込むように。
ベルトに手をかけて、自身を開放する。いい加減苦しい。早く、吐き出したい。
露になったそれを女の太腿に押し付ければ、ギクリと背筋を強張らせた。異様な熱を持ったそれに戸惑った様だった。
「待っ、て、ヒル魔、くん…やっぱり怖い…」

何を、今更。
もう、戻れねぇ。
解ってんだろ?姉崎。

「今更、怖気付いたのか?」
耳元まで唇を寄せて問うた。
「勢いだけで無責任な台詞吐く女だったか?糞風紀委員」
「…っ!」

敢えて、責める。
責められるべきなのは俺の筈だろうが糞。余りの身勝手さに吐き気がする。

「はじめて、なの」
「知ってる」
「優しくして、とは、言わない、から」
「…」
「せめて、抱きしめて欲しい、な」

そう言って俺の首に腕を回した。腕を糞女の背中に差し込んで体を密着させる。ブレザー越しでも、心音も体温も余すところなく伝わる。自身を秘裂に擦り付けながら、その抱擁に酔いしれた。
「なぁ」
碧眼を見据えて言葉を落とす。
「俺と堕ちろよ、姉崎」
一瞬目を瞠って、そして笑み崩れた。柔らかい、初めて見る表情だった。

あぁ、もう駄目だ。いよいよ自制が利かない。昂ぶり過ぎて、嵐の様に激情が吹き荒れる。
何かに急き立てられる様に、自身を秘裂に沈めた。
「ひっ――――――…!!」
今迄とは比べ物にならない質量のそれを穿たれて、糞女は息を詰めた。
「息、吐け」
焦点の合わない眸を見ながら唇に啄む様なキスを落とす。そうしてやれば甘い吐息を零して力が抜けてきた。少しずつ腰を進めて自身を全ておさめてから、もう一度抱きしめてやる。女が安堵のため息を零した。それを合図に腰を動かす。最初は痛みが混ざった吐息だったのが、徐々に悦楽が伴ったそれに変わっていった。糞女の顔を茫洋と眺めてみれば、白い頬を朱に染めて、碧眼に透明な涙を湛えたオンナがそこにいた。

堪らねぇ。喰らい尽くしたくなる。形振り構わず犯してしまいたくなる。
だが、駄目だ。そうすればコイツまで『奴』に殺られてしまう。
殺られるのは、俺だけで十分だ。

突き動かす度に聞いたことのなかった声が鼓膜を揺らす。動くたびに碧眼から透明が転げ落ちる。それを舐めとって、嚥下する。

支配する、暗い悦。嗤う、口許。
響く鼻にかかった喘ぎ声。首に回された腕。
誘う様に動く女の腰。

『奴』の凶器が俺を貫く。

もたげる狂気。歪んだ狂喜。
喰らう。喰らい尽くす。
速まる律動、荒ぐ息。

女が限界を迎えて全身を反らせて、躰を痙攣させる。俺は衝動を抑えこんで自身を引き抜くと、女の腹部に欲望をぶちまけた。
そこは女の蜜と男の欲望でむせ返りそうな匂いが立ち込めていたが、不思議と、居心地が良かった。
虚ろな眼をして惚けた姉崎をまるで傍観者の様に見遣る。
得も言われぬ開放感。
歪んだ悦楽。
満たされた、独占欲。

自然と、歪んだ嗤いを浮かべた己に気がついて、牙が食い込む程唇を噛んだ。
こんなものは、穢れを知らないこの女には、見せてはならなかった。

知らぬ間に、雨は止んでいた様だった。