常軌を逸する。 1

 今は午後12時50分。絶好の昼飯時で、ご多分に漏れずトガと黒木と飯を食っている。場所はちょっとでかめのパーキングエリア。和洋折衷なんでもアリで、正直何を食っていいか困る。
更に言えば、今目の前の観葉植物越しで起こっているこの光景にも困っている。
「ぱぱーあたしねーこれがたべたいのー」
「おー?ハンバーグセット?」
「うん、このぷりんがたべたいの」
「ハンバーグは食えんのか?」
「はんぶんだけならたべれるよ」
「はいはい。じゃ半分貰うかんな。糞奥様は何食うって?」
「うん、いいよー。ままはねーおむらいすにいちごぱふぇだって」
「…ホントにテメェら糞甘臭ぇモンばっか食いやがって…」
「ぱぱもいる?」
「いらねぇ」
「おいしいのにー」
「…そう言うところまで似てやがんのな」
「ぱぱはなにたべるの?」
「パスタ」
「これ?あ、のっかってるべーこんちょうだいー」
「おーやるからいい加減注文すんぞ糞娘。頼んでる間に糞女も戻ってくんだろ」
「はーい」
「…人の膝の上でじたばたすんな」


「…」
「…」
「…」
「…見たか今の」
「見た」
「見たな」
「ありゃあの悪魔だよな?」
「多分」
「紛れもなく蛭魔だな」
「じゃ膝の上に乗ってんのは?」
「ミニチュアマネージャー」
「…大丈夫か黒木、遂に頭がゲームになったか?」
「大丈夫だトガ、コイツは元々頭がゲームだ」
「あぁそっか」
「な」
「な、じゃねぇよ納得してんな!」
「娘、だよな」
「少なくともマネージャーの子供っつーのは分かるな」
「無視かよ!」
「…似なくてよかったな」
「右に同じ」
「それは俺も同じ」
「にしてもありゃ意外過ぎやしないか」
「何が」
「おい黒木お前それ本気で言ってんのか?」
「だから何が」
「「子煩悩」」
「あー」
「目の前で甘い物食おうとしても怒らねぇとか」
「銃持ち歩かねぇとか」
「代わりに食ってやったりとか」
「自分の分けてやったりとか」
「挙句膝の上に自分のガキ乗せてたりとか」
「それが案外嬉しそうとか」
「あーなるほどなー」
「…本気でわかんなかったのか?」
「おーわかんねぇ」
「…イタイな」
「そりゃ元からだ」
「そっか」
「な」
「だから何がな、なんだよ!」
「ところでなんで俺らは席離れてるとはいえあの悪魔親子と一緒にこんなとこでメシ食ってんだ」
「そりゃアレだろ」
「あ、コレだろ?」
「…黒木、お前ご丁寧に案内ハガキ持ってきたのか」
「おー。ほらアレだろ?ないと来れないですってヤツだろ?」
「いやそれは違うだろ…」
「相変わらず頭おめでたいな」
「そうかー?それ褒められてんのか?」
「「いろんな意味で」」
「どんな意味だよ」
「同窓会兼親睦旅行だろ、コレ」
「泥門デビルバッツ創設10周年記念ついでだっけか」
「また無視かよ!」
「他の連中は?」
「別んとこでメシ」
「で、子煩悩悪魔はあそこか。ああなると悪魔も形無しだな」
「高校ん時じゃ想像つかんな」
「だよな。にしても娘かわいーなー」
「もう立ち直ったんか」
「おーよ。いいなー抱っこしてぇー」
「黒木、遂にロリコンへ」
「違ぇーよ!父性本能と言え!」
「父性かロリコンか紙一重だがな」
「だな。お、蛭魔いなくなってんぞ」
「チャンスだ!じゃこの隙に彩菜ちゃんとお近付きになりますかねー」

「で、誰とお近付きになるって?」

「「「!!!」」」
「い、いつのまに…」
「イヤーチョット下賤ナ輩ノ気配ガシタモノデスカラ…」
「銃!とりあえず銃!どけてくれ!」
「やっぱり悪魔は悪魔か…」
「ウチの糞娘に何か御用がおありナラ、代わりにこのボクがお受けシマスヨ?…そんな勇気を微塵でもお持ちなら、の話デスガ」

 その時至極楽しそうに吊り上がった口角を見て、背筋が凍った。この男の大人気ない威嚇行為に関しては、高校時代よりも多少なり威力が増したんじゃねぇかと思う。それが子煩悩故だとは正直想像もつかなかったが。もし黒木の頭に突き付けた拳銃の撃鉄の音を元マネージャー現悪魔の嫁が聞き付けてすっ飛んで来なければ、間違いなく悪友が一瞬にしてトンネルになっちまってたかもしれない。
悪魔は結婚しても、結局悪魔のままだった。

さぁ一日目(しかも宿にさえ辿り着いてねぇ)にして、どうなる同窓旅行。