抱き合って眠る

 カーテンの隙間から覗いた月がゆらゆらと部屋を照らす。薄く光がかかったこの空間が好きでカーテンを少し開けておく。寝る時に大抵後から床に付く妖一がカーテンを閉めるのが日課になっていた。今日はいつになく嬉しい金曜日だったかもしれない。そんな事を洗いたてのシーツにくるまりながら思っていた。いつもだったらまだ帰ってこなくてキッチンのテーブルで本を読んだりして待っているのだけど今日は違う。でも結局はいつもと一緒でくっついて眠るんだけども。妖一が目覚まし時計片手にベッドに腰掛ける。

「明日何時に起きんだ」
「んー7時半くらい」
「早ぇだろ」
「早くないわよ。洗濯物干してから行きたいし」
「ソウデスカ」

 小さく溜め息を付いてから目覚まし時計をセットしてサイドテーブルに置く。そのままベッドの中へ。そしてゆっくり頭を抱かれた。適度に筋肉の付いた胸に額をくっつけて鼓動を感じる。月明りが揺れて、眼の端で影がゆらゆら揺れた。
そういえば。

「カーテン閉まってないよ」
「たまにはいいんじゃねぇか」

 そう言って私の髪を梳く。閉めに行く気はないみたい。まぁ私もこのままでいいかなと思ってたのだけど。穏やかに、夜に溶け込むように、部屋を照らす。そんな中、尚も妖一は私の髪を触り続ける。指を通して、くるくると輪を作って、顔を押し当てたりして。妖一は決まって寝る時こうやって私の髪を弄ぶ。こうするのが好きみたい。まぁ一度も言われた事はないしきっと言う気もないんだろうけど。それに対して私は決まって額を妖一の胸に付ける。そうやってゆっくり妖一の腰を抱いて、匂いとか温もりとか鼓動とか、存在を感じる様にして眠るのが好き。抱き枕みたい、なんて言ったら当分やらせてくれなくなりそうだから言わないけれど。こうしていると、人間という生き物はいくら普段強がっていても一人じゃ生きられない様に出来てるのかな、と思う。だって、体を寄せているだけでこんなに居心地がいいと思うんだもの。
 一度それに気付いてしまえば、もう離れられない。離したくない。至極当たり前だと感じるようになってしまったこの平穏が歳をとっても、家族が増えても続きます様に。そこまで考えて、顔を押し当てる様にして抱き付いて、そっと、目を閉じた。