無知は罪 Seen.1

 某ホテルのパーティー会場。バイキングスタイルの立食形式で、卒業から5年という節目に行われる泥門高校同窓会にはそれぞれが様々な面持ちで集っていた。幸せそうだったり悲しそうだったり切なそうだったり。

淡い期待を抱いてみたり。


seen1:会場入口


 高校の同窓会がある事を知ったのは2ヶ月ばかり前の話だった。というのも家に招待状なんてモノが届いたからなのだが。始めは面倒だと思っていたものの、5年、という時間経過に懐かしさを覚えたのと、アメフト部の面々(とはいっても自分を入れても片手の指で釣りが来る)に揃って会うという事もそうそうなかったので、一応出席に丸を付けて出した。まぁ結局の所出席の最たる理由は例の夫婦がこの会場に来た時の(もちろん妻が妻だから来ない訳がないという前提の上で)騒動を期待しているからなのだが。
当然怖い物見たさというヤツだ。

「ムサシ君!」
「あぁ、雪光か。久し振りだな」

会場に入って直後懐かしい顔に声をかけられた。相変わらず額が眩しい。

「そういえば卒業以来だからね。顔、全然変わんないね…」
「昔っからオヤジ顔だったからな」
「い、いや、そういうつもりじゃ…」
「お前も変わらないな。特に頭が」
「いや…え?」
「いや、なんでもねぇ。そういや栗田とヒル魔見なかったか?」

話を適当に誤魔化して、一番付き合いが長いだろう二人の所在を聞く事にする。

「あ、栗田君ならそこで…」

指を指された方を向き直るまでもなく視界の隅に入るまごう事なき巨体。…お前も相変わらずか。

「…食ってるな」
「…食べてるね」
「の割に料理結構残ってるな?」
「…さっき4回目のお皿交換してたんだ」
「…相変わらずか」
「…相変わらずだね」

そこまで変わらねぇってのもまたすごいな。少しはメタボでも気にしろよと言ってやりたい。

「で、ヒル魔は…あぁ、やっぱいい」
「?」
「姉崎を見つけた」
「あ」
「相変わらず美人だな」
「うん」

相変わらず男に囲まれてるな。

「…危ないな」
「…危ないね」

 5年前と全く変わらない光景を見て、つい身を案じる。周りの男共の。うろたえる姉崎の周辺に視線を巡らせて、近くにいるだろう奴を探す。こうまで囲まれていて奴が黙っている筈がないのだ。こりゃ思いの他期待通りの展開が望めそうな気が。

「…姉崎さん、笑顔が轢き吊ってる…」
「…手、握られてるな」
「…あ、なんか誘われてるみたい」
「こりゃ死人が出るな」
「姿が見えないのがまた末恐ろしい…」

そんな光景を緊張の面持ちで見ていると、やや落ち着きのない目をした姉崎が、会場の一番奥の、無駄に豪華な花輪の向こう側を見た。チラリと。

「?」
「どうしたの?」
「…!ヤベェ!」
「え?…!うわっ」
「食うモン持って離れるぞ、巻き添えはごめんだ」
「そ、そうだね」

姉崎が一瞬見た先には、花輪の僅かな隙間から会場に似つかわしくない妖気を放った、奴の姿。至極楽しそうな猟奇的な嗤いを浮かべた奴と、目が合った。…こりゃ想像以上かも知れねぇ。

「できれば栗田に葬儀の準備してもらった方がいいかも知んねぇな」
「…」

つい口を付いて出た淡々とした台詞に雪光が同意の目を向ける。普通だったらこんな台詞など冗談程度のモンだが、アイツの場合冗談じゃ済まない。俺達は周りの連中に同情して、会場の隅で見物する事にした。

流れ弾が当たるのは勘弁してくれ。