無知は罪 7

seen7:祭りの後の蛭魔夫妻


 あの後の事は、ずっと胸に顔を押し付けられていたものだから、何があったのかはまるで知らない。それでも耳だけは健在だったからちゃんと銃声とか悲鳴は聞こえていて、それだけで見えなくても何があったのかは把握できた。付き合いが 長いのも善し悪し、ね。
 お陰であの落ち着かない状況から開放された訳なのだけど、できればもう少し平和的な方法にして欲しい。彼の腕を疑っている訳じゃないけれど、流れ弾とかも危ないし。漸く開放されて慌てて顔を上げて見れば、蜘蛛の子を散らした様に辺りはすっきりしていた。残されたのは、無数の弾痕。遠巻きに少しほっとした様な嬉しそうな表情をするムサシ君達とアコ達を交互に見ていたら、途端に恥ずかしくなって、騒動の主をキッと睨んだ。
「ちょっ!妖一!もうちょっと違った方法で…むぐぐっ」
顔、上げない方が良かったかもしれないなぁ。唇に、唇。
「んー!んーんー!」
 腰に回された腕はそのままでみじろぐ事さえままならず、ただ両腕で胸板をドンドン叩く事しか出来なかったのだけれど、力もロクに入らずに。結局されるがままだった。それでも耳だけは健在だったからちゃんと冷やかす声とか口笛とかは聞こえていて、それだけで見えなくても周りの表情が想像できた。
恥ずかしい!恥ずかしい!
長いキスの後に漸く開放された私は、ここに来てから全く喋れなかった咲蘭とアコに会って(正確に言えば逃げて来て)やっぱりそこでも冷やかされた。二人曰く 、顔が真っ赤だったらしい。私の。


* * *


そんな経過を経て、今帰路についている。隣りにいるのは心なしか不機嫌な元超問題児の旦那様。
「お陰様でちゃんとアコ達と喋れたしご飯もちゃんと食べられました」
「そりゃよかったな」
そう言う彼の眉間には皺。
「でももうちょっと平和的な方法は取れないの?」
不機嫌だと知っていて敢えて言ってみる。
「あぁ?」
「もし流れ弾とかで誰かが怪我したらどうするのよ」
「テメェは俺の腕疑ってんのか」
「そうじゃないけど!」
「おとなしくしてて欲しいんならいい加減下らねぇ虫くっつけてくんじゃねぇ」
あ、不機嫌の原因は私か。
「そんな事言われても…」
「万人に笑顔振りまいてっからいけねぇんだよ」
「だって…」
「自己評価が低過ぎる」
「…はい」
「…素直で気持ち悪ぃな。変なモンでも食ってきたのか」
「あ、貴方にだけは言われたくないです!」
そう文句を言ったけれど、さりげなく心配してくれてるのが嬉しくて腕に絡み付いた。
名前を呼んだら
「ねぇ妖一?」
眉間に皺を作ったまま彼が振り向いた。
「今度はなんだ」
今日のお礼とごめんなさいと仕返しを込めて。
そのまま少し背伸びをして、唇を奪ってみた。