無知は罪 Seen.6

seen6:栗田専用テーブル前


いよいよ本人が出て来たのを確認して、正面から登場シーンを目撃して動けなくなった栗田の側に行く。

「大丈夫か?」
「…あ!ムサシー!いきなりヒル魔が姉崎さんの後ろから出て来てびっくりしちゃったよー!何!?何があったの!?」

…相変わらず鈍いなお前は。

「…まぁ見てれば分かるだろ。それより少し離れた方がいいぞ、流れ弾に当たる」
「流れ弾?」

あと出来れば葬式の用意。そんな話をしているうちにヒル魔がゆらりと方向を変えた。表情は変わらずそのままで。随分楽しそうに笑っていやがる。

「そこに居られるのは2組の山田君じゃアリマセンカ?どうですかその後奥サマに浮気はバレてイマセンカ?」
山田が固まった。顔面蒼白。
「オヤオヤそちらにいらっしゃるのは3組の坂本君ではアリマセンカ。その後イカガデスカ?ストーカーしていたコンビニのお姉サントハ?」
坂本がしゃがみ込む。周囲は白い目で坂本を見た。
「ナントそこのお方は元パソ研の鈴木君じゃあゴザイマセンカ。まだ違法エロサイトの運営にお力を注いでらっしゃる様でお元気で何よりデス」
泡吹いて倒れた。合掌。

「さてさて、サーモンマリネのお味はイカガデスカ?山下君」

姉崎の手を引いて延々喋り続けていた男に向き直る。あーコイツは泡吹いて倒れる程度じゃ済まないな。ヌラリと手を前に出して、何もない所から出したのはボイスレコーダー。相変わらず手品巧過ぎだ。
「このボイスレコーダーには今までの貴方の会話が全て録音されている訳デスガ、コレを貴方の婚約者がお聞きになられたらなんとお答えにナルカ…」
山下の表情が強張る。まだまだ続くヒル魔の口上。
「マダゴザイマスヨ。貴方の会社の女性の証言、よからぬ所へ通う貴方の証拠写真、それから貴方の前科」
そういえばコイツ下着ドロの常習犯じゃなかったか?次から次へと手から現れる証拠の品々。一回タネを聞いてみたいんだがな。顔面蒼白で身動きさえとれそうにない山下がおずおずと口を開いた。

「な…なんでそこまで知ってるんだよ…だっ大体っ!どうしてそこまでされなきゃいけないんだっ!」

相手がヒル魔なだけに否定するのは無駄だと悟っているのか理由だけを聞きにかかった。まぁ気の毒と言えば気の毒だが。

「理由?いやぁ至って簡単デスヨ、糞同級生諸君。ウチの糞女房がお世話になったほんの細やかなお礼デス。気に入ってイタダケマシタカ?」

「「「「…は?」」」」

「ネームプレートに書いてある日本語くれぇ読んどけ糞馬鹿野郎共!」

視線が一気に姉崎の胸元のネームプレートに注がれる。

『蛭魔まもり(旧姓:姉崎)』

「「「「何ィーーーー!!!」」」」

 人間予想外な真実を突き付けられるとこうも人外な叫びが出るのかと思う程超音波的な声を発して一斉に散った。姉崎はヒル魔が現れてからというものそこから動く事なく(むしろ動けないんだろう)それでも微動だにせずじっとヒル魔の側にいた。…免疫ついちまったんだな、遂に。姉崎をしっかり腕に抱き抱えて、奴が吠えた。

「さぁ糞野郎共!俺からの餞別だ、有り難く受け取りやがれ!」

 H&K MP5(とか言うらしい)を男共の群れに向けて一斉掃射しにかかった。おいマジで撃つ気か。その笑顔で。さすがに止めてくれ姉崎、とは思ったが、唯一ヒル魔の暴挙を制御出来るであろう女はしっかり顔を胸板に押し付けられていて、女は女で離れようと必死だった。辺り騒然、とは言っても無差別と言う訳ではないらしく、姉崎にちょっかいだした連中だけを集中攻撃しているらしい。器用というかなんというか、ここまでぞっこんだったとは恐れ入る。本人には言えないが。死ぬのはさすがにまだ勘弁。